解説

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』作品評(阿部嘉昭)

開巻早々の黒画面で、傷のような縦棒が一本、無造作に現れる。それがやがて二本になり三本になる画面が出てくると、映画内に小分けされている章の序数だという了解も成立してゆくのだが、ご覧のようにそれはローマ数字ではなかった。縦棒の数でのみ数値がた…

愚かなる姉弟(井土紀州)

姉と弟は、母の遺骨を抱いて、かつて自分たちが暮らした街を徘徊する。その過程で二人の内に、かつて義父に受けた虐待の記憶が甦り、姉弟は義父の影に怯えることになる。性的暴行を受けていたらしい姉は、「男の人の指が怖い」と言い、水に沈められていたら…

大工原正樹の『赤猫』をふりかえって(井川耕一郎)

(『赤猫』は9/27,10/4に上映)(『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』について書いたときと同じように、とりとめない雑感になってしまうかもしれないが、『赤猫』についても書いておくことにする) 『赤猫』のシナリオを大工原さんにメールで送り、あー、終…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第3回(井川耕一郎)

今年の三月にアテネフランセ文化センターで大工原正樹特集があったとき、チラシには次のような『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の紹介が載った。 子供の頃に義父から受けた虐待の記憶に苛まれる姉弟が、母の死を機に故郷の港町を久方振りに訪れる。彼ら…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(花くまゆうさく)

「姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う」を見た。 一ヶ所ものすごくハッとする恐いシーンがあって、ビックリ感心したよ姉ちゃん!花くまゆうさく(漫画家)

『電撃』へのコメント(粟津慶子)

(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)『収穫』のころと比べ、だいぶ大人っぽくなった波多野桃子さん。彼女が演じる妹は、年上の女を怖れおののかせる威力いっぱいでゾクゾクしました。あのむにゅっとした足にあの靴下、あのスカート丈、恐ろしい計算です。…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第2回(井川耕一郎)

岡部尚演じる弟がかかえている骨壷から、長宗我部陽子演じる姉が遺灰をつかむと、それをトンネルめがけてまく……。 完成した『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を初めて見たときに一番ひっかかったのは、シナリオにはないこの冒頭だった。シナリオを書いた…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(藤原章)

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』は主人公の姉弟が様変わりした故郷の港を歩くところから始まる。 「久しぶりだな〜、ずいぶん変わっちまいやがって!」 港町を背にしてこんなセリフを口にすれば、自ずと作為的なアングルにもなろうというもの。いわゆ…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(三宅隆太)

脚本家・映画監督の三宅隆太さんより『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメントを頂きました。 本当に辛い経験をすると、時間は停止する。 姉ちゃんと弟の場合もそうだった。 我々はちょっとした居心地の悪さを覚えながらも、ふたりの旅のお供をさせ…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第1回(井川耕一郎)

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』については前に書いたことがある(注)。しかし、あのときはまだ完成作品を見ていなかった。そこで、今回は映画を見たあとに思ったことを記そうと思う。といっても、とりとめのない雑感になってしまいそうだけれども。 …

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を観て(清水健治)

この文章は、『寝耳に水』(監督:井川耕一郎)に出演している清水健治さんが脚本の井川耕一郎さん宛のメールに書いた『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の感想です。 清水さんの許可をいただいて掲載しました。『ホトホトさま』観させていただきました。…

『静かな家』へのコメント(高橋洋)

(「静かな家は」9/26,10/1に上映) 自分が変質者だと気づいてしまった少女の話、なんだろう。 それが美少女で、かつ学校でイジメにあってるとか友達とうまくいってないとかじゃなく、男子が喧嘩をしていれば体を張って止めるぐらいのしっかりしたヤツ、とい…

『電撃』へのコメント(三宅隆太)

(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)脚本家・映画監督の三宅隆太さんより『電撃』にコメントを頂きました。 正直、渡辺あいの演出には、やや迷いを感じる。 現場での悔いが残留思念となって映し出されてしまったような場面もある。 だが、それでもこの映…

『ミニチカ』へのコメント(高橋洋)

(『ミニチカ』は10/6,10/7に上映) 新谷尚之が演じる狂人が写っているわけだ。しかし、我々が目撃したあの狂人とは、何であったのか、もう少し厳密に言わねばならない。 あれは赤塚不二夫の漫画に登場する狂人の実写化なのである。 大木原正樹がそう指示した…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(尾西要一郎)

映画プロデューサーの尾西要一郎さんより、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメントを頂きました。 微熱をおびた姉弟の道行き。蟲たちのすえた匂い。トンネルに滴る鮮血の存在感。 映画の「彼岸」がここにある。 瑞々しさと円熟。大器、大工原監督…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』『純情№1』の衣装について(長宗我部陽子)

『ホトホトさま』で着ている衣装は1点のみ。紫色のワンピースと白いカーディガン、ベージュのトレンチコート、それと紫色のパンプス。衣装は元々、血糊で汚れることが分かっていたので、新品を2着買いすることになっていた。そこで、監督と私と助監督の中…

『BMG』へのコメント(万田邦敏)

(『BMG』上映は9/29,10/7)映画監督の万田邦敏さんからプロジェクトDDENGEKIで上映の『BMG』にコメントを頂きました。 何やら怪しげな男が勧める怪しげな仕事を引き受けた女に向かって、その怪しげな依頼者がささやく。「もし仕事に失敗したら、あなたの…

『BMG』へのコメント(高橋洋)

何か80年代の自主映画を思わせる気配がそこかしこに漂っている映画であった。 80年代の自主映画といっても色々なのだが、ここで言ってるのは、立教のパロディアス・ユニティとか僕の所属していた早稲田のシネ研とか法政のシアターゼロ関係とかが撮ってい…

『正当防衛』というタイトル(高橋洋)

(正当防衛は9/26,10/5に上映) だいたい監督の伊野沙紀は日本語がおかしい。この映画の原案はすでに入学時に提出された企画書段階で出来上がっていたのだが、どうしてそれが『正当防衛』というタイトルなのか、僕はさっぱり判らず、そもそも正当防衛って何…

『わたしの赤ちゃん』における◯◯◯について (高橋洋)

(「わたしの赤ちゃん」は9/27.10/7に上映)あえて◯◯◯と伏せ字にしたのは、それがクライマックスの階段シーンで起こる重要なアクションと関わっているからで、ネタバレしたくないのである。 うーん、それは『わたしの赤ちゃん』の準備中、シナリオに書かれて…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(小原治)

ポレポレ東中野の小原治さんより『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』にコメントを頂きました。 聞いたこともないのに知っている主題歌に心奪われ、個別の時間と空間の玉突き事故に興奮し、カルピスという事実がまた味わい深いビンの虫に心が蠢きました。一…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第3回(清水かえで+井川耕一郎)

(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)<井川耕一郎→清水かえで:『電撃』の病気、『乱心』の病気・その2> 次に『乱心』について。 清水さんは、シーン13で盛太が遠くに放り投げたボールが、シーン14でひよりをあたりそうになるところについて尋ねてまし…

『電撃』の顔について(古澤健)

(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)渡辺あいは、僕の連作短編『Mっぽい』シリーズのヒロインである。と書いたら本人に嫌がられるだろうが、僕の認識ではそうなのだからそこから始めたい。役者が監督に転じると、大概傑作を撮ってしまうものだ。最近で言…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第2回(清水かえで+井川耕一郎)

<清水かえで→井川耕一郎:『乱心』のシナリオを読んで> 『乱心』のシナリオ、送っていただき、ありがとうございます。 面白かったです。 どんな役者さんがどんなふうに演じているんだろう、どんなところで撮影しているんだろうって、 冨永さんの映画が見た…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第1回(清水かえで+井川耕一郎)

(『電撃』より)<はじめに> 試写で渡辺あいさんの『電撃』を見たら面白かった。それで、大工原正樹さんに、『電撃』の感想をブログに書きますよ、と言ったのだが、あとになって、しまった!と思ったのだ。冨永圭祐くんの『乱心』とセットにして論じると面…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』試写を見て(にいやなおゆき)

今日、また『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』試写に行ってきました。これで何度めか。7回……いや、8回くらい観てるかも。しかし不思議な事に何度でも観れるんですよね『ホトホトさま』。ストーリーだけの映画なら飽きるし実験映像だと疲れるけど、この作…

『わたしの赤ちゃん』よし、このシナリオで行こうと思ったとき(磯谷渚)

出来上がった作品は、ザッツ姉妹ものといった感じなのですが、最初に何をやろうか考えていたときに、主要人物を姉妹にしようとは思っていませんでした。最初に考えたのは、「死産した保母さんが子供を失った悲しみでだんだん精神を病み、保育所に預けられた…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(松江哲明)

ドキュメンタリー映画監督の松江哲明さんより、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へコメントを頂きました。 姉ちゃんの動きが可笑しい。手をくねらせるタイミング、首をひねる間、すっとぼけた台詞回し、終いには弟を結ぶ帯のくねくねする動きにまで目が…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』・『純情No.1』 メイキング裏話(高橋洋)

映画監督・脚本家の高橋洋さんより、「ホトホトさま」と「純情No.1」について文章を頂きました。「終わりの歌が聞こえてくるよ〜」。主題歌の作詞を担当した高橋洋です。 自分で言うのも何ですが、いい曲ですよね(予告編に流れてます)。 歌謡曲に詳しい井…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』 キャストからのことば(岡部尚)

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』出演の岡部尚さんよりお便りを頂きました。 「姉さん」という台詞が好きでした。 「姉さん」と口にすると、照れ臭いけど妙にゾクゾクでした。 自分にも姉がいるが、「姉さん」と呼んだことはなかった。関西弁はともかく…