『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメント(三宅隆太)


脚本家・映画監督の三宅隆太さんより『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメントを頂きました。


本当に辛い経験をすると、時間は停止する。
姉ちゃんと弟の場合もそうだった。
我々はちょっとした居心地の悪さを覚えながらも、ふたりの旅のお供をさせてもらうことなる。
但し、終着駅がどこなのかは知らされていない。

姉弟のやりとりを見つめながら、微笑ったり、戸惑ったりしているうちに、
我々もまた時間感覚を失ってゆく。
オンで描かれる現在はつねに朧げで、真夏の逃げ水のようにふたりを翻弄する一方、
オフで描かれる過去がどれも鮮烈すぎるからだろう。
やがて、我々はある疑問に辿り着く。

姉ちゃんと弟は、本当に同じ場所にいるのだろうか?

もしかしたら、互いの肉体はまったく別の時空に存在しているのかもしれない。
それでも、ふたりの心は確実に繋がっている。
だから、時間も空間も彼らにとってはあまり重要ではない。
そう。これはとある姉弟の「心」を描いた「心霊映画」なのだ。

リストカットを思わせる章立ての標が刻まれるたび、物語は血の匂いと痛みを伴いはじめる。
そして、朧げだった現在は明確な色彩を帯びてゆく。
これ以上ないほどの「紅」だ。

想像だにしなかった凄惨なクライマックスを終えると、
姉弟の心の旅はようやく終着駅へと辿りつく。

そこに血の匂いと痛みはない。
あるのはただ、姉ちゃんのかすかな体臭とシャボンの甘い香り。
停まっていた時間が、ほんの少し動き出した気がした。

三宅隆太(脚本家、映画監督、スクリプトドクター・『七つまでは神のうち』『呪怨 白い老女』)