『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』『純情№1』の衣装について(長宗我部陽子)

 『ホトホトさま』で着ている衣装は1点のみ。紫色のワンピースと白いカーディガン、ベージュのトレンチコート、それと紫色のパンプス。衣装は元々、血糊で汚れることが分かっていたので、新品を2着買いすることになっていた。そこで、監督と私と助監督の中島さんとで、銀座に買い物に出た。ワンピースを求めて店内を探し歩き、それぞれ選んだもの全部で5,6着を持って試着室に入った。1着着替えるたびにドアを開けて、イメージに合うかどうか監督と中島さんに見せる。ああでもないこうでもない、さっき着たのもう1回着てみて、写真撮って、また引っ込む。店員さんは優しかったけど、少し困った顔をしていた。選ばれたワンピースは、その時期にはかなり薄手で、デザインも女性っぽいラインだったので私の好みには合わなかった。「やだな」と思ったが、「これ、いいんじゃない」と言われると何も言えなくなった。
 衣装合わせでは、紫色のワンピースに合う上着を次々着ていったが、あまり合うものがない。しっくりこない。その中にトレンチコートがあった。大工原さんはトレンチを着せたいようだ。トレンチは着こなすのが難しいし、このワンピースには合わないので「やだな」と思った。でも「いいね」と言われたので、また何も言えなくなった。靴は、その日製作部の西出さんが履いていた紫色のバレエシューズを借りて試しに履いて見せた。紫のワンピースに、紫の靴。「なんか、不健康だな」と思ったが、紫に決まってしまった。

 『純情』では、大工原さんの着古したベージュのジャンパーを着せられた。ところどころ穴が開いていて、煙草の臭いが染み付いたずいぶんボロなジャンパーだった。家もなく、ゴミ箱を漁って飢えをしのいでいる女なら、着るかもしれないな。でも、あまりにもブカブカで、肩もずり落ちて重く、格好が悪い。それに加えて、ベルトの代わりに縄ひもでジャンパーを締めようと言い出した。
「かなり、やだな」と思いつつ、言われたまま着けてみた。鏡で見てみると、あまりにもみすぼらしく、情けない、気の毒な私が映った。「うわっこれはやだやだ絶対だめ」さすがによくないと思ったんだろう、「やめよう」と言ってくれた。心底ほっとした。

 大工原さんは一見人当たりがいいので、油断していると何でもやらされてしまう。「面白いから、やって」と。こちらはちっとも面白くない。見ている方は面白いかもしれないけど、やっている方は違う。だけど、お客さんが「いいね」とか「面白いね」と言ってくれれば「そお?」と満更でもないカオをして澄ましているんだから、私も随分いやらしいもんだ。

長宗我部陽子(女優:『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』『恐怖』『土竜の祭』『行旅死亡人』『寝耳に水』など出演作多数)