『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』・『純情No.1』 メイキング裏話(高橋洋)

映画監督・脚本家の高橋洋さんより、「ホトホトさま」と「純情No.1」について文章を頂きました。

「終わりの歌が聞こえてくるよ〜」。主題歌の作詞を担当した高橋洋です。
自分で言うのも何ですが、いい曲ですよね(予告編に流れてます)。
謡曲に詳しい井土紀州監督が、この歌を聴いてすっかり既成曲だと勘違いして「やった!」と思いました。
ところで僕はこの映画の企画段階からあれこれ関わっているのです。
大坪砂男の『天狗』という、腹をくだした男が慌てて便所の戸を開けたら、女が便器にしゃがんでいて、男は平謝りするけど、女は親にも見られたことがない姿を見た男を決して許さない、男は女の狭量を憎んで復讐を決意する、という実に奇怪な小説があって、この出だしはどうかと提案したら、大工原さんは異様に盛り上がり、学生たちはひたすら便所の話を書かされたのだけど、どうもうまく行かず、結局、井川耕一郎君が木更津をシナハンして、今のホンが出来ました。
井川稿では便所の話はカットだったけど、大工原監督の便所への執着は凄まじく、森田亜紀さんが登場する映画館のシーンにその片鱗が残ってます。
で、主題歌の方ですが、粗編を見た後、大工原さんが「何かもう一つ足りない」と言い出したんで、中央線の帰りの車内で「歌とか流したらどうですかね?」「それだ!主題歌を作りましょう!」ということになり、そのまま高円寺で降りて深夜のカラオケに主演女優の長宗我部さんを呼び出し、『修羅の花』とか『虹色の湖』とか延々歌ってもらって、声のトーンをつかみ、曲のイメージが固まって来ました。そこから作詞までは早かったですね。
冷静に考えると、主演女優を深夜に呼び出す何てムチャクチャでした。
しかし、その後も大工原さんの便所への執着は止み難く、今回併映の『純情No.1』でモロにやってます。
いったい何でそこまで便所にこだわるのか…。
ここでは男女の立場は入れ変わり、急激な便意を催した長宗我部さんは便所に駆け込もうとしてもの凄いつっ転び方をします。
便意に襲われた人がどうして倒れるのかよく判りませんが、大工原さんがモロに床に倒れてみてと指示した時、長宗我部さんは一瞬怒りの眼で監督を一瞥し、思い切り倒れてみせたそうです。
ちなみに便所の狭い空間での撮影はとても難しく、この時、撮影の山田さんが開発した手法が、その後、『旧支配者のキャロル』の便所のシーンに生かされてます。
 


高橋洋:映画監督・脚本家(『旧支配者のキャロル』『恐怖』『リング』他)