『電撃』へのコメント(三宅隆太)


(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)

脚本家・映画監督の三宅隆太さんより『電撃』にコメントを頂きました。



正直、渡辺あいの演出には、やや迷いを感じる。
現場での悔いが残留思念となって映し出されてしまったような場面もある。
だが、それでもこの映画には渡辺の類い稀なる作家性と、今後の短編市場にとっての重大な可能性が秘められている。

ひとことで言って、これは現代版『四谷怪談』である。
伊右衛門は仕事と称してはパソコン画面ばかり見つめる草食系(一見)。
お岩は伊右衛門の子を宿しているが、肉体的接触はおろか視線すら合わせてもらえず、家政婦の立場に甘んじている。
そこに伊藤喜兵衛の孫娘・梅にあたる人物がやってくる。
梅は奔放な十代の娘で伊右衛門の「妹」を自称するが、兄であるはずの伊右衛門に対し、不自然なまでの肉体的接触を開始する。
嫉妬と疑念を抱いたお岩は調査を始めるが、ある日、身ごもった腹を梅にフォークで刺されてしまい……。

この時点で物語はまだ3分の1しか経過していない。
たった36分の短編にもかかわらず、だ。
脚本は冨永圭祐と渡辺あいによる共著。高密度な前半部に舌を巻いた。
その後、映画は『四谷怪談』とは似て非なる物語に発展してゆくのだが、さてどうなるか?
事の顛末は是非スクリーンでご確認いただきたい。

演者のなかでは、自称「妹」を演じた波多野桃子が圧倒的に素晴らしい。
彼女の生々しい存在感が、この映画に不足しがちな血肉と鉄分を与えている。
ようするに、波多野桃子は肝臓なのだ。
肝臓は今の日本映画界にもっとも足りない臓器である。
大切に育てていかなければならない。

三宅隆太(脚本家、映画監督、スクリプトドクター・『七つまでは神のうち』『呪怨 白い老女』ほか)