ドイツ・フランクフルト遠征記4(冨永圭祐)

・5月5日(晴れ後雨)
おはようございます。
新世代映画作家・僕です。
パンを食べようと思いましたがカッチカチでした。歯が立ちません。

ロビーへ降りると、誰もいません。
今日は10時からステファン・ホールさん(『おんなの河童』プロデューサー)のワークショップが行われます。
昨晩、各部屋へ分かれる前にちらっと言ったのですが、みんなボーっとしてました。
まぁ、来ないと思ってたけどねっ!と僕は鍵をロビーに預けました。
しかしどうしたものか。
今回の旅では携帯での連絡が取れません。渡辺あい以外は携帯を使える措置を取っていないのです。勝手に一人で行動すると、確実に昨日のように夜まで二度と会わないでしょう。いや、ひょっとしたら二人とはもう一生会えないかもしれません。
閃きました。
僕は手紙を書きました。
それを二つ折りにし、大工原正樹の部屋のドアの隙間に挟んでおきました。これでドアを開ければポトンと手紙が落ち、確実に大工原正樹は手紙を読むという寸法であります。
ドアの下の隙間から手紙を滑り込ませてもよかったのですが、大工原正樹のことです。気づかずに手紙を踏んづけ続け、ドイツから帰る頃にくしゃくしゃになった手紙が発見されるということが容易に想像できます。

出発しました。
朝はとても清々しいです。
カフェでコーヒーを買い、ゲーテ大学に着きました。
参加する監督は僕以外に、隈元博樹監督(Sugar Baby),眞田康平監督(しんしんしん),
飯塚貴士監督(ENCOUNTERS)でした。
テーブルにはコーヒーとプレッツェルが用意され、朝パンを食べ損ねた僕はがっつきました。
ステファンさんは、『おんなの河童』を引き合いに出しつつ、海外映画祭とはどういう場なのか、自作を売り出すためにはどういった道があるのか、ドイツではどういう日本映画が見られているのか、など話してくださいました。

こちら側は、日本の映画界に感じる現状を話しながら質問していきました。『おんなの河童』についても色々聞くことが出来ました。僕は大好きな作品です。
話が白熱したころにそっと入り口のドアが開き、皆が振り向くと大工原正樹が現れました。
ワークショップが終わると、各々作品のDVDをステファンさんにお渡ししました。

大工原正樹はフランクフルト中央駅を見てみたいというので、行ってみることにしました。
渡辺あいとMさんには声をかけてこなかったようなので、本日は別行動です。
今回の旅で唯一、空が曇りました。
ヨーロッパの町並みは曇り空も似合います。
とういことで、ボッケンハイマーのヴァルテと一緒に。


大工原正樹、シブイです。

ちなみに後に教えていただいたことなのですが、ヴァルテ(Warte)は後ろの塔のような建築物のことで、争いのあった時代に敵軍をせき止めるための壁のようなものの名残らしいです。今では各地で塔の部分だけが残されて、カフェなどとして利用されています。(でしたっけ?大工原さん、渡辺さん)

フランクフルト中央駅に着きました。

大工原正樹は円をユーロに換え、いざ駅を出ましたが、どこに行っていいものやらさっぱり分かりません。フランクフルトはドイツ金融の中心らしいのですが、見た感じ中央駅はビジネス街っぽいです。
とりあえず、駅近くにある見るからに怪しい日用品店(?)に入りました。
安いです。
大工原正樹は鬼安のTシャツに心奪われておりました。よく分からない単語がプリントされております。
ここで僕は運命的な出会いをしました。


こいつです。中国製の水筒でございます。
かっこいいー!
僕は一目で心を奪われました。
ボディには「思宝」と書かれています。意味が分かりません。


蓋の頭には方位磁石がついてます。便利です。

この機能美とデザインを見事両立させた水筒、お値段は25ユーロ(2,500円くらい)でございます。
僕は自分へのドイツ土産に、この中国製の水筒を買うことにしました。
今回の旅で一番高い買い物をしてしまいました。

雨が降ってきました。
トラム(ちんちん電車)に乗ってみたいのですが、地下鉄以上にさっぱり分かりません。
我々が乗ろうものなら、見たこともない町で降ろされ、二度とボッケンハイマーへ帰れなくなる可能性もあります。
結局地下鉄で戻ることにしました。
中央駅構内で本屋さんに立ち寄り、日本の友達へのお土産を買いました。
大工原正樹は時計屋さんで10ユーロの腕時計を見つけ、「試しにこれ買ってみるわ」と買いました。買ってからボディ裏を見るとMADE IN JAPANと書いてありました。

ボッケンハイマーに戻ってきた我々は、腹ごしらえをしにファストフード店に入りました。ドイツの代表的大衆食らしいCurrywurst(カリー・ヴルスト)があったので食べてみました。
大工原正樹は、見た目カレーライスのような、ピラフみたいなのにハッシュドビーフみたいなのがかかったみたいなのを食しました。
味はカレーでもハッシュドビーフでもなく、食べたことのない味ですが、美味しかった。
大工原正樹が店員に尋ねたところによると、ここはアフガニスタン料理の店らしいです。
アフガン料理、美味しいです。

その頃、渡辺あいとMさんは、レーマーでおしゃれなカフェへ行き、さらには我々が念願かなわなかった市場のソーセージを食べていたというのです!


昨日の料理で胃をやられて体調不良と聞き、心配したのですが、女性というものははかりしれないものです。

さて、会場に戻った我々は、NIPPON VISIONS部門で、中島信太郎監督『ジャックの友人』と、山崎樹一郎監督『ひかりのおと』の二本立てを見ました。

『ジャックの友人』は、シネドライヴ2012で拙作『乱心』と同プログラムで上映された映画です。中島監督は面白い野郎です。彼にもドイツに来てほしかった。
厳格に切り取られた8mmの映像と、音の演出について考え抜かれた遊びにあふれた映画です。3回目の鑑賞ですが、僕はこの映画が好きです。
一方、『ひかりのおと』は岡山を舞台にした酪農家家族の映画です。
自分がみたことのない風景、牛、実感したことのない世界、苦悩を見せてもらいました。
こういう体験は映画ならではの楽しみだと思いました。
『ひかりのおと』は、このニッポン・コネクション2012でNIPPON VISIONS AWARDを受賞しました。
ちなみに監督の山崎樹一郎さんは、6月2日〜6月8日と『ホトホトさま』+プロジェクトDENGEKIを上映していただいた大阪シネ・ヌーヴォの山崎支配人の弟さんであります。
おめでとうございます!

その後、さらにNIPPON VISIONS部門 眞田康平監督『しんしんしん』を見に行きました。
眞田監督は、作品において何よりも物語を重視していると言っていました。

『しんしんしん』は、テキ屋で生計を立てる疑似家族が家を失い、各地を転々としながらテキ屋をやっていくというロードムーヴィーでした。出演者は、石田法嗣、佐野和宏、洞口依子神楽坂恵など、そうそうたる面子。疑似家族に当然のように訪れる破綻、そこからの希望までを堂々とした演出で描ききったクオリティの高い作品でした。
最初にスクリーンに映像が映し出された時、まずスコープサイズなのにびっくりしました。
んで、映像めちゃくちゃキレイです。キャメラはRED ONEだそうです。うらやましい!

そのあとの1,2時間ほど、僕には記憶がありません。
一体、どこでなにをしていたのでしょうか?

ちなみに渡辺あいは、Mさんとタイ料理を食べていたそうです。

もう一度言いますが、確か渡辺あいは胃をやられて…

22:30
さて、いよいよ拙作『乱心』の上映でございます。
時間的にはかなり不利かも、と思っていましたが、


おお、満席に近いです!感動です。


『Sugar Baby』の隈元監督(左)、キャメラマンの佐藤舜さん(右)

舞台挨拶を終え、『Sugar Baby』から上映が始まります。
こちらもシネドライヴ以来二度目の鑑賞でした。

隈元監督自身が演じる自主映画監督兼俳優の主人公は、撮影をすっぽかして帰郷します。かつて炭鉱町だった故郷で、主人公は失われた産業と廃れつつある映画に触れ、放浪していきます。
ドキュメンタリーとフィクションの境目のあいまいさが観客を戸惑わせながらも作品へ引き込んでいきます。主人公の知的にふるまいながらすっとぼけたキャラクターは、監督が自分自身を客観的に見た姿でしょうか。だからこそ最後のシーンがとてもいいです。

いよいよ『乱心』の上映となりました。
お客さんは若干減ってしまいましたが、緊張します。正直、自分の上映中の記憶はあまりございません。一瞬電気がつきかけるというトラブルがあったことだけ覚えております。
あとはあっという間でした。

上映が終わり、Q&Aとなりました。

『乱心』については、ATGや70年代の日本映画に通じるものを感じるが、影響を受けているのだろうか、という質問がありました。
内心どっきんこです。
ATGはあまり意識していませんでしたが、恐らく影響を受けた映画は神代辰巳監督の『地獄』(1979)でした。
ある車のシーンで、ヘッドライトの光が6つに反射していてとても印象的だったのだが、どうやって撮影したのか、という技術面の質問もありました。それに関しては、実は偶然でした。キャメラを置いた位置の関係で、レンズに反射した光が6つに分かれて映ってしまったのですが、作品の世界観にマッチしていてよかったと言ってくださいました。
そういえば、大阪で上映した時に自分の母親も同じ部分に言及していました。
思わぬところにお客さんが反応しているのを実感できるのが上映の醍醐味であります。

トークも終わり、会場を出ようとしたところ、年配の女性のお客様お二人に呼び止められました。
「あなたは『乱心』の監督?」
「あ、そうです」
「上映前の舞台挨拶で『緊張している』と言っていたけど、緊張する必要なんかないわ。あなたの映画は素晴らしかった。物語に重みがあって、役者の印象的な表情も捉えられていてとてもよかったわ」
感無量でございます。
出演者のことについて触れていただけるのが、やっぱり一番うれしいです。
握手をしました。「ダンケシェン」と5,6回は言いました。


サインもしました。僕の字は某猟奇殺人者の字にそっくりだと評判ですが、がんばって書きました。

夜も12時を過ぎ、大工原正樹、渡辺あい、Mさんは先にホテルへ帰りました。
僕は隈元監督や眞田監督、飯塚監督、本田隆一監督たちとそのままゲーテ大学で打ち上げました。
初めて地下に行ってみたら、カラオケが行われております。あんまり上手くないレッチリレディオヘッドが聞こえてきます。恐らくゲーテ大学の学生たちでしょう。めちゃくちゃ盛り上がってます。楽しそうだ。
普段この場所は大学のなんなんだ?
聞くと、ドイツにはほとんどカラオケもないので、こういう機会があるとめちゃくちゃ盛り上がるのだそうで、カラオケ慣れもしていないから上手い人もあまりいないのだそうです。

そこで「日本のカラオケとは」をテーマに話が盛り上がりました。
トイレへ行くついでに一階のクラブへふらっと立ち寄ってみました。
普段はクラブが苦手なのですが、ここがフランクフルトでニッポンコネクションで酔っているからなのか、僕は一人で激しく慎ましやかに踊りました。
2,3分で疲れて地下に戻りました。
その後ルーニー・マーラヴィルジニー・ルドワイヤンのかわいさについて語りつくし、ホテルに戻ると朝5時でした。
おやすみなさい。