『電撃』へのコメント(高橋洋)


(『電撃』は9/24,10/2,10/5,10/8に上映)

映画美学校生は何故かクランクイン直前になってから「ご意見お願いします」と僕にシナリオを送って来るのだ。
で、時間がないのはこちらも判ってるんで慌てて眼を通し、意見を書き送ると、「イン直前でどこまで直せるか判りませんが、貴重なご意見ありがとうございました」とテキトーな返事が…。だから何でギリギリに送って来るんだよ? 神社に「奉納」するんじゃないんだから。
で、『電撃』の渡辺あいもギリギリに送って来たのだ。しかもこの映画はホン直しで一回撮影を中断したのだが、いよいよ再開の時もイン直前に送って来て、一度ならずも二度までも…。
渡辺あいは外見に似合わずかなり頑固な人らしい。僕が娯楽映画のセオリーとしてもっと明確にせよと言ったところをことごとく曖昧にしたかったみたいだ。
それって一歩間違えば、曖昧さを高尚と勘違いしてるみたいな甘さに陥りなりかねないのだけど、出来上がった作品を見ると、渡辺あいの頑固さが『電撃』の一つ一つのショットにパワーを与えている感じがしましたね。
この人は今後も映画を作り続けていける人だという手応えが作品から伝わってくる。
ヒロインがベランダに身を隠すシーンは実に素晴らしい。今時なかなか見られない片思いの王道をやっている。
でも、僕はあそこでヒロインに、片思いの相手が指を怪我した鉢植えに手を伸ばして欲しかった。
愛する男の血痕に自分の血が混ざり合う恍惚を。
もっともそんな追撮、やってる余裕はなかったんだろうが。
ちなみに渡辺あいはスコリモフスキーの『ハンナと過ごした四日間』を見てるのだろうか?
見ている気がする。それとキム・ギヨンの『下女』も。
で、今、思い出したが、そういえばタイトル、『電撃』がいいと言い出したの僕じゃないか。
自分で言うのも何だが、僕ってタイトルセンス、あるんだよね。


高橋洋:映画監督・脚本家(『旧支配者のキャロル』『恐怖』『リング』他)