『BMG』自作解説(松浦博直)

 

ジェームズ・スチュワートみたいな洒落た男が、若尾文子梶芽衣子のような業を背負った影のある女性と出会い、二人が恋に落ちる映画にしたい。最初はそんな風に漠然と考えていました。しかし彼らが出会ったのはいいが、その後がなかなか進みません。男と女が出会えば映画になるだろうと安易に考えていました。ちなみにこの「BMG」というタイトルは「boy meets girl」の頭文字からきています。タイトルも安易でした。
僕は脚本を書くためジェームズ・スチュワートになりきりましたが、彼女を口説く愉快で気の利いた台詞がどうしても出てきません。男女のドキドキする恋の駆引きとなるともう論外です。それならば若尾文子の抱える問題を描くことによって、現代の抑圧を告発するような社会派映画にしよう。こうして別のアプローチを試みましたが、そんな立派な主題はもともと持ち合わせておらず、その場しのぎででっち上げても二人のドラマが面白いものになっていくはずもない。本来ならこの主題をじっくり考えるべきだったのかもしれません。そもそも企画を考えていく上での順序が違うとも思いました。

しかし安易な僕は、そうはせずに拳銃を出すことにしました。拳銃があれば当然犯罪が絡む。若い男女と拳銃、そして犯罪。もうこれで企画は成立するに違いない。こんなかんじで出来ていった映画です。

結果、男性はジェームズ・スチュワートというより僕自身に近いキャラクターになりました。演じてくれた西口浩一郎君は男性の(僕の)滑稽さをうまく表現してくれました。僕は西口君が時折ジャン・ピエール・レオみたいに見えました。スタッフには気のせいだと言われました。

伊藤まきさん演じるヒロインには最初のコンセプトが残ったと思います。伊藤さんはスタイルがいいので佇まいが画になるのし、歩く姿が格好いい。そして表情にはいつも悲しみが潜んでいました。そういえば劇中、駅のホームで「レッドクリフ」のポスターが映りこんでいますが、彼女はどこかリン・チー・リンに似ているような気がします。

ジェームズ・スチュワート若尾文子にはなりませんでしたが、ジャン・ピエール・レオとリン・チー・リンが出会う映画になったので満足しています。

映画が完成してみると、「BMG」は《落ちる》ことが主題になっていることに気がつきました。映画の冒頭、伊藤さん演じる英子は奈落の底へ突き落とされ、失意から涙が落ちます。西口君演じる和夫は、英子に出会いそして恋に落ちる。そのときなぜだか彼の鼻からは血も流れ落ちてくる。そして最後にもう一度《落ちる》出来事があるのですが、それは作品をご覧になって確認していただければと思います。

松浦博直