『静かな家』作品解説(長谷部大輔)

「静かな家」作品解説

 「静かな家」は東京芸大映像研究科の一年目に撮る夏季実習作品として製作されました。2008年に撮ったものなので、あまり多くのことは覚えていないのですが、決まりごとは、シナリオは脚本領域の学生が担当し、尺は30分、16ミリフィルムで撮影する、ということ以外特になかったと思います。
 父と娘を主役に置いたこのシナリオを初めて読んだとき思ったことは、とにかく「わからない」でした。でもなぜかそこが魅力的と思える不思議なホンで、撮りたい、と思いました。
 この映画はとても台詞が少ない映画なのですが、一番初めの娘の台詞が「お父さん、ワタシ、人を殺したい。できればお父さんがいいんだけど」で、この台詞が一番わからなかった。脚本家やプロデューサーと話し合いをし、実際の少年事件なども調べたりしました。そうした社会的な背景は反映しようと思ったのですが、まだ弱い、というかノレない。元々とても感覚的に書かれたホンだったので、脚本家も掴みあぐねている感じがしました。シナリオは難航しました。そこで何度もシナリオを読んでいるうちに、ふとこの台詞が、恋人が駄々をこねているような台詞に聞こえてきたのです。そうか、父と娘じゃなく、恋人同士の話しにしたら映画になるかもしれない。娘は父に恋をしてしまった。しかし娘はその感情が何なのかわからず戸惑っている。そこで娘は父に言います。
「お父さん、ワタシ、人を殺したい。できればお父さんがいいんだけど」
これならいける。完全に直感ですが、いけると思いました。
 そこでキャスティングは、父娘にも見えるけれど、恋人同士にも見える、というコンセプトの元、奥ノ矢佳奈さんと田中洋之助さんにお願いをしました。
 奥ノ矢さんは「嫌われ松子の一生」で中谷美紀さん演じる松子の子供時代を演じた実力派で、撮影当時13歳の現役中学生でした。普段は笑顔がとても可愛い、とにかく元気な女の子なのですが、芝居になると、シナリオで書かれたことを、とても的確に、強く表現してくれるプロの俳優でした。本当に素晴らしい女優です。是非彼女を見てほしいです。
 田中さんは東京乾電池の舞台にも立つ俳優で、この「わからない」シナリオを「わからない」まま真摯に演じてくれ、それは父が娘に抱く困惑としてとても上手く表現されていました。
 この映画の最後、娘のなみきは父英也に本当の言葉を伝えます。その台詞は娘から父への告白のつもりで撮りました。是非ご覧になってください。ヘンテコで、胸に迫る、とても愛くるしい映画だと思っています。

長谷部大輔