万田邦敏監督『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』コメント

映画監督の万田邦敏さんから『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』へのコメントをいただきました。


大工原さんの映画を見ていつも思うのは、「上手いなあ」ということです。『未亡人誘惑下宿』や『風俗の穴場』のように多くの登場人物が一堂に会する集団劇を、まるで撮影所出身の職人監督のような手さばきできちんと演出しきる人は今の日本に大工原さんしかいないのではないでしょうか。これは大げさな賛辞ではなく、その2本を見れば誰もが納得するほかない事実です。『赤猫』以後は上手さに鋭さが加わって、演出や編集に無駄がなく、ものすごい切れ味とでもいったものを感じます。例えば『ホトホトさま』の開巻のカットの連なりは、それだけでも上手さのみが実現する映画的な充実に満ちていますが、その一連のカットに差し挟まれるバックミラーに映った姉の顔のカットは、そこにバックミラーの顔の画面を挿入することを選択したことの上手さもさることながら、この画面が、映画の中盤で今度はバックミラーに映った弟の顔の画面と呼応するように仕組まれていて、しかもその画面が物語に決定的に不穏な空気を漂わせるきっかけともなるという憎たらしい構成で、そういうことを今の大工原さんは冷静にやってのけるわけです。大工原さんの映画を未見の人は、なにはさておき、この機会に絶対に見るべきです。

万田邦敏(映画監督『接吻』、『UNLOVED』、『ありがとう』など)