助監督日誌・『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』編 (冨永圭祐)

○DAY 1

2009年3月某日、僕は新宿スバルビル前にいた。たくさんの撮影隊のロケ車に混じって、『ホトホトさま』撮影隊の車も申し訳なさそうに並んでいた。そう見えたのは、自分の心境のせいだろうか。
なにせ、ここまで本格的な現場(映画美学校のカリキュラム内とはいえ)は初めてであったし、そもそも自分はスバルビル前すら知らないほどぺーぺーだったのだ。これは今までの撮影とは違う、という緊張感が嫌になるほど漂う。うーん、笑えない。

そういえば、全然スタッフが来ない。平然と遅刻の連絡が続く。ふざけるな。「○○部の○○さんが来ないんですがどうしますか?」知らない。電話したら、「今家です」電車で来て下さい。
ことごとく、不安要素が増えていく。そんな状況だが、車は出発した。アクアラインを通って、木更津へ。大工原正樹監督とキャメラマンの志賀葉一氏に挟まれて、僕の肩身はエヴァンゲリオンぐらい狭かった。

木更津に着くと、大粒の豪雨が僕たちを歓迎してくれた。終わった。まだ撮影は始まっていないが、そう思った。ぼーっとしていると、大工原さんと志賀さんはキャメラポジションを確認していた。
気がついたら1カット撮っていて、あっという間に車に乗り込んで車内のカットを撮り始めた。実感が沸かないうちに、現場が進んでいく。

午後から、嘘のように晴れた。現場は着々と進んでいく。
旅館に移動し、夕食を食べて旅館シーンの撮影へ。撮影後は、そのまま旅館に泊まるという寸法だ。
旅館の撮影もスケジュール分が終わり、皆各部屋へと散らばった。
監督の希望により、僕は大工原監督、志賀さんと3人でめちゃくちゃ広い大部屋に当てられた。正直、つらかった。気が休まらない。隣の大部屋からは、修学旅行のようにはしゃぐ男子全員の声が聞こえてくる。いいなぁ。俺も、仲間に、入れてくれ。

いつのまにか、部屋の前のソファで座ったまま眠っていた。演出部の渡辺あいさんに声をかけられて目が覚めた。風呂に入り、部屋へ戻ると大工原さんと志賀さんはすっかり夢の中だった。僕も布団に入ったが、大工原さんの地鳴りのような頼もしいいびきに悩まされた。
明日からもっと大変なことになるから、無理にでも眠ったほうがいい。何も知らないそのときの自分に、今の自分から言ってやりたい。